東京地方裁判所 昭和42年(ワ)5310号 判決
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〔判決理由〕(二)前会社退職後の損害
原告の経歴、原告が本件事故により入、通院し治療に努めたことは、先に認定したとおりである。
<証拠>を総合すると、原告は前示通院加療の後、昭和四二年三月二七日頃から再び勤務に就いたが、当時、前記受傷による頸部運動制限および頭痛等の若干の神経症状を残していたものの、この症状が直ちに、原告の企画職としての勤務を困難にする程度のものではなかつたこと、職場に復帰はしたものの上司から勤務態度につき注意を受けることもあり、又、原告の所属していた機械課が忙がしく残業も多いため、他の部署への配置換を希望したが、会社からいれられなかつたこと、かねてから円満な関係を欠いていた妻との離婚問題も重なり、同会社にそのままいても将来に希望は持てないと思つて、同年六月一五日「自己都合」という名目で退職したこと、昭和四三年四月二二日青木内外特許事務所に就職し、専門の技術を生かして翻訳と設計事務を担当し、月額七万七、一〇五円(保険料、所得税等控除後の月額七万二、六八八円)の収入を得るに至つたが、二ヶ月も経過せぬ六月一〇日には退職したこと、同月二一日から前会社と同じく株式会社日立製作所の系列会社である現会社に地位、給与も退職時とほぼ同様の条件で就職するに至つたことが認められ、原告本人の供述中右各認定に反する部分は措信し難く、他に、右認定を覆えすに足りる証拠はない。
以上の事実によれば、本件事故にあつたことが後日前会社を退職するに至つた一つの原因となつたことはうかがわれるけれども退職の直接の原因を原告の本件事故による受傷にのみ求めることは困難であり、むしろ、原告は、自己の都合により前会社の了解のもとに依願退職したものと認めるのが相当である。
原告は、(1)前会社の退職後、現会社に就職するまでの間における得べかりし給与所得の喪失による損害、(2)現会社に就職後の給与が前会社に勤務を続けていたと仮定した場合における前年度の給与にほぼ等しいから、この一年間遅れたことによる給与損害、(3)前会社に勤務を続けたと仮定した場合の退職金から現会社より支給されるであろうそれとの差額による損害をそれぞれ主張するが、原告の退職が必ずしも本件事故による受傷の後遺症状のみに基づくとは認められないこと前記のとおりである以上、仮に、原告主張のような得べかりし収入の喪失があるとしてもこれを本件事故による受傷と相当因果関係に立つ損害であると断ずることはできない。
ただ、先に判示したように、原告の前会社退職につき本件事故による受傷が、直接とは言えぬにせよ、何ほどかの原因を与えたことも否定することはできぬのであるから、いわゆる逸失利益損害としては相当因果関係を肯定しえないとしても、慰藉料算定の事情としてはこれを斟酌する余地あるとせねばならない。
<中略>
(四) 慰藉料
原告は、本件事故により前記傷害を受け、その後、前記のように入、通院して治療に努めたが、前記後遺症状を残したのであつて、いずれも精神的損害を肯定しうる。また、原告が本件事故後、前会社を退職したのは、その直接の原因を本件事故による受傷にのみ求めることはできないけれども、本件事故にあつたことが退職の原因を与えたものであり、これによつて収益を失つたことを慰藉料算定の事情としては斟酌しうるものであることを先に判示したとおりである。これらを総合し、原告の精神的苦痛を慰藉すべき金額は、一四〇万円(その大体の内訳は、入院期間につき二五万円、通院期間につき五万円、後遺症状につき一〇万円、退職諸事情につき一〇〇万円である。)を相当と認める。(倉田卓次 福永政彦 並木茂)